神。




今日駅に向う途中、道を歩いているといきなり太鼓の音が鳴り出しましてね

それはもう見事にドコドコと、この世のものとは思えないほど大きな音でドッコンドッコン言ってる訳ですよ


あわてて周りを見渡すと、近所ではそれなりに有名なお寺がありました

きっと朝の儀式?的な物で太鼓を叩く習慣があるんでしょうね


しかし以前聞いた話によるとその寺は現在深刻な後継者不足で、僧侶さんがほとんど全員70歳を超えていると聞いた事があります


と言う事はこの2月のクソ寒い早朝から70歳を超えた僧侶さんがこのへヴィなメロディの発信者という事になります


僕の頭の中ではやずやのCMでナレーションをしている大滝ヒデジがX-JAPANYOSHIKIばりに上半身裸になり命を削って太鼓を叩いているその僧侶の姿を想像して勝手に尊敬の念を覚えました


ところで僕は6年ほど前、病気で一ヶ月ほど入院していた事があります


しかし入院とはいえ症状たるや持病のめまいを治すリハビリの為、毎日ヘンな体操みたいのを行わなければいけないのを特訓するだけで体は至って健康だったんですよ


そうなるとやっぱし元気がありあまってくるじゃないですか、元気があればなんでもできる!とおっしゃった猪木師匠のように無茶をしてみたくなるじゃないですか


だから僕は迷わず行けよ!行けば分かるさ!というやっぱり猪木師匠の教訓をそっくりそのまま実行に起こし、みんなの寝静まった病院内を夜中の二時に徘徊すると言う暴挙に出てみました


するとですね、やっぱりですね、中にはいらっしゃるんですよね、僕のようにネタで夜中に行動してるワケじゃない人が


たとえばとある若い男は暗い部屋で一人ふとんを被って起きだして、ミニTVみたいので深夜のエロ番組?を見ていたりとか


たとえばとある紳士風はなぜか夜の間中、吐いてもいないのにずっと嗚咽を漏らしていたりとか(おそらく吐き気の幻覚?があると思われる)


たとえばとある老婆はだれもいない部屋に向って幼稚園の保母さんがお遊戯をしている園児にやるみたいに、ずっと手拍子を打っていたりとか


まあそんな事をしている内に夜中出歩いてるのが看護婦にばれてしまい、お前それ以上やったらベッドに縛り付けるぞ!位の事を言われてしまったので縛られるのが大好きな僕は大歓迎だったのでけれどもここは自重しておくべきだろう、と判断して出歩くのをやめました


そうするとホントにやる事が無くなって来ましてね、毎日ヒマでヒマでしょうがないヒマヒマ星人になってしまい逆に体調が悪くなると言う輪廻のパラドックスでした


そこで僕は地元の友を呼び出そうと考えたわけですがこれもまた微妙に問題がありましてね


一人でいる事が大好きな僕は見舞いに行くと言う友達の申し出に「お前らが来るとうるさいから病院は教えん」位の事を言ってしまっていたわけですよ


ここまで言っといて今さら「ヒマだから遊びに来て〜ん(はぁと」とか言うのってどんだけツンデレなんですか僕は?でもヒマだったんで呼んじゃいました


すると友の一人がこれまた微妙に気を利かせてきたのか漫画をたくさん持ってきてくれまして


ただこれがお前絶対ブックオフの100円コーナーで揃えただろ、もしくはお前ん家のゴミに出すのがめんどくさかったんだろ、てなラインアップでしてだいぶシオシオでした


しかしその中にもちょっとは見ごたえのある作品もあるもんでしてね


どうも彼は気を利かせたのかただのエロチックボーイなのかは分かりませんが、持ってきたなかに「電影少女」が入ってました


当時の僕といえば一番元気(身体的な意味で)な20代前半、そこで一ヶ月も入院しているわけですからもうなんだ、色々アレなんですよ


しかしいくら夜中に色々アレなおっちぃとはいえ病院で・・そんな・・・ な事をするはずもなく、とりあえず読んでモンモンとしてました


するとやっぱしムダに元気が湧き出る訳じゃないですか、だからその日は思い切ってもう一度深夜の徘徊に行ってみました 


次見つかったら縛られるとはいえそれもバッチコイですしね

するとですね、なんとですね、とんでもない事にですね、以前回ったときに手拍子を打っていたお婆さんが前回よりも5倍くらい早いリズムで手を叩き続けてるワケですよ


僕はそれを見てなんだか切なくなってしまいましてね、さっきまでROCKET DIVEしかねない程鬼のような勢いで歩いていたのに、そのeverfreeな光景を見ることによってだいぶキモチがピンクスパイダーになってしまったのです

仕方なく僕はすごすごと病室へ戻りました


日にちがあけて次の日、僕は間近に迫った退院手続きをしにナースセンターのほうへ出向きます しかしここでおかしな光景が


前日の夜中にあれだけ手を叩いて疲労しているであろう老婆が、朝の早いうちにもかかわらずまたもやリズムを取っているのです


病室の他の人との挨拶も終え、すっかりいい気分で退院を心待ちにしていた僕はなんだか昨日の切ない気分をまた思い出してしまいました


しかしいざナースセンター近くにある彼女の部屋のそばに行くと普段とは違う光景が広がっています


おそらくお孫さんであろう、小さな男の子がお婆さんの前で一生懸命にお遊戯を踊っていました


この光景を見た僕はそれまでに想像していた色々さまざまなアレが現実ではなく、お孫さんへの愛、ただそれのみから来る行動だった事に安堵を覚えました


そして世の中捨てたもんじゃないな、決して神も仏もいないワケじゃないんだな、という事を痛切に感じたのでありましたとさ


(おしまい)